moriko kira architect

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これまでとこれから

 

独立したばかりの頃は、空間をつくることが建築家の仕事だと思っていました。機能や導線をベースに、空間のプロポーションや光の取り入れ方や内と外の関係を考えていく。そこにしかない、豊かな生活の場をつくることに心を砕き、自分が設計している建物のことで頭がいっぱいでした。ところが、出来上がってみると、私の設計した建物が、以前から建っている周りの建物と一緒にストリートを成しているのです。建物を設計することって、わたしたちが生きてきた時間よりももっとずっと長い時間やもっと広いエリアと関わることなのだと肝に銘じました。古い建物のリノベーションではこの長い時間との関わりはもっと具体的です。改修デザインはずっと昔に生きた人の決断と対話するようなものだと思います。

 

一つ一つのプロジェクトが出会いです。クライアントに出会い、新しい場所を訪れ、毎回違う機能を依頼される。クライアント、場所、そして機能それぞれの「これまで」を知り、そこに今ある自分自身を対峙させて、「これから」のための建築を形にする。何もかもが時の流れの中で変遷していきます。その瞬間を捉えて、動かない、物理的な空間を作ってしまうというのが建築家の仕事。乱暴に見えるけれど、そこから逃げだすことはできません。私以上でもなければ以下でもない自分が答えを出すしかないと思っています。

 

建物と建築の違いは何か。わたしは文化的な価値をもった持続性のある建物が建築だ、と思います。決して明快な答えではありません。建築は、プロジェクトごとに、毎回探すものだと思っています。こういうコンセプトで、と思って設計をはじめることはありません。そこに至るまでの過去を背負い、これからを生きていく、クライアントと場所と近隣、時には既存の建物との出会いに身を預ける自由を謳歌したいのです。それぞれの「これまで」と「これから」を模索し、その先にある一つの建築を探していきたい。

 

このインターネットサイトでは、私たちが設計をしていく上で大切だと考えるテーマを元にプロジェクトを分類しました。「建物と周りの環境の関係」「住民とともにコミュニティーを作りながら住宅をつくっていく」「古い建物をどう将来に生かしていくか」などといったテーマです。

 

現在の段階では私たちのサイトは英語とオランダ語です。将来的には日本語を加えていこうと考えていますが、3カ国語をメインテナンスするのはなかなか複雑で、皆様にはご迷惑をお掛けして申し訳ないと思っています。メイルをお送りいただければ随時日本語で情報をお送りいたしますので、どうかお気軽にメイルをお送りいただければと思います。また、2013年3月に「これまでとこれから」というタイトルの本をリクシル出版社から出版いたしました。7つのプロジェクトの設計と建設のストーリーで、一つひとつのプロジェクトの「建築を探す」目的とプロセスを描きました。ぜひとも読んでいただきたく思います。

 

空間から時間、周辺環境へと広がってきた私の意識の「これから」は、暮らしに向かっているような気がします。生活空間をつくるだけではなくて、その空間を流れていく活動や物資やエネルギーをオーガナイズしていきたいと思うようになったのです。例えば私は料理や食べることに興味があるので、キッチンやダイニングの空間はすごく重要だと思うのですが、それ以上に、そこで料理する食材がどこからくるのか、どのように育てられているのか、ということを気にせずにはいられなくなりました。自分で野菜や家畜を育てて暮らすことは現実的ではないので、世の中に存在する食品の流通のシステムを知って、選んで、関わっていく。そのことがもっと自分自身の視野を広げてくれて、新しい出会いや模索に繋がっていくのではないかと思っています。